玉稿激論集

玉稿をやっています。

新型コロナワクチンウイルス

 ご多聞にもれず、ワクチンの副反応に苦しむ次第となってしまった。いやはや、なんとも情けない。「副反応で休むとかマジないっす」と煽り合っていた僕と先輩の双方に土が付いた格好だ。

 就寝前は平熱だったが、夜中寒気とともに目が覚めたときには37度を超えており、この頃から暗雲が立ち込め始めてはいたが、その段階ではまだ僕は諦めていなかった。何せこれは己のプライドを賭けた戦いでもあるのだ。就職以降突発休をとったことが一度もないことが、仕事ができないため各部署をタライ回しにされている感の否めない己を既のところで支えてくれていた。確かにポンコツかもしれないが、身体は丈夫だぞと。それなのにー。

 屈強の自覚を持った人間は体温計を所有してはならないというのは自他を共に束縛する鉄則である*1が故に、これまで無縁で過ごしてきた先端に水銀の装飾が施されたかの機器。接種日の翌朝の体温を会社に報告する必要があったため、驚安の殿堂にて購入した婦人用*2のかの機器。そして、起床時そこに表示された「38.42℃」という文字列(婦人用のため小数第二位まで測ってくれるらしい)と猛烈な倦怠感。完全に僕の負けだった。白旗。ポツダム宣言受諾。玉音放送のつもりで会社に欠勤の連絡を入れた。

 とりあえずカロナールを2錠飲んで布団にくるまる。寒気と頭痛、そして接種した腕の痛みに、ああ体調不良って確かこんなのだったなと妙な感懐を抱く。前日に投与されたのは、新型コロナウイルスワクチンというよりもむしろ、新型コロナワクチンウイルスだななどと脳中で苦笑しながら。

 寝て、目が覚めて、体温を測り、熱が下がっていないのを確かめてからカロナールを飲むことを繰り返していたら、当初10錠あったはずのそれがいつの間にか残り2錠になっていた。しかし依然として体調は回復の軌道に乗らない。僕は漸く焦燥に駆られてきた。このままでは明日も欠勤することになるかもしれない。そんなことになったら、屈強の看板を返上するのは勿論のこと、ひ弱のレッテルを貼られかねないだろう。これだから◯デルナは。苦虫を噛み潰す。私はファイになりたい、いや、私もファイを打ちたい。そう願った、後の祭りでしかないが。

 朝からほとんど何も食べていないが、食欲はない。しかし本能的に何かを食わねばと思い、フラフラ歩きでどうにか近所のコンビニに辿り着く。朦朧とした意識の中、ポカリとおむすびとヨーグルトを買い、居室にてそれを一心不乱に頬張る。最早食事ではなく、餌だ。ポカリをガブ飲みし、風呂で汗を洗い流す。そしてラストカロナールをキメて、床についた。

 翌朝どうなったかって?それはまあ、いいじゃないですか。

 何はともあれ、こうして僕は今般の流行性感冒の抗体を手に入れた。一説によると、ワクチンは雨合羽程度のものでしかないらしいが、結構毛だらけだ。どんな豪雨が降りしきろうと、僕は、俺は、私は、この雨合羽一枚で生き抜いてみせる所存である。

*1:共同幻想論』前書きの「無智が栄えたためしはないというのは自他を共に束縛する鉄則である」のオマージュもといパクりです。

*2:これしかなかったのである。