玉稿激論集

玉稿をやっています。

西村賢太に寄せて

BUMP OF CHICKENの『Acacia』をバックグラウンド再生しながらYahooニュースをスクロールしていたら、「西村賢太死去」の文字が目に飛び込んできた。瞬間絶句してしまう。 遺族とは連絡がついておらず、北区が葬儀を行う可能性もあるとのこと。身元不明者とし…

代筆業(fiction)

客に泣かれたときにもらい泣きをするのも仕事のうちだ。 目の前にいるのは中年の女。ハンカチーフで目頭を押さえているものの、涙は止め処なく流れている。俺もひとまずメモを取る手を止めて、涙の訪れを待つ。 夫を亡くした妻の気持ちを想像するのは初めて…

友の門出に際して

中高の同級生だったSが結婚するらしい。実にめでたい。 何年も全く動いていなかった剣道部の同級生LINEグループに結婚の報告が上がったのは、去年の11月末。特段驚天動地の事態でもなく、僕も他の皆と同様、型通りの祝いの言葉を述べたのだが、先日Sから結…

鉄鎖からの脱却

普段アップしているぐらいの長さの記事であっても、書いた後は疲れており、「もう何も書くことないな」という思いとともに布団にくるまり惰眠を貪る展開と相成るのだが、如何せん定期的に更新をするというのは自分と約束したことであるし、己との約束を破っ…

浅瀬から深海へ

某有名コーヒーチェーンにてコーヒーを注文すると、バリスタと思しき店員さんから「本日の豆は〇〇産です。ジューシーな味わいですよ」との説明を受けた。 嘘だろと思う。コーヒーは嫌いではないから日に一杯は飲むが、未だかつて「ジューシー」なそれを口に…

根っこにあるもの(改)

最近周りと比べて己の人間としての未熟さを感じることが多く、その度にほんの少し落ち込み、それなりに反省して、人間的成長を心に誓うのだが、悲しいかな未熟な人間というものの性で、幾度となく同じ過ちを繰り返してしまい、その度にまた少しだけ落ち込み…

男一匹選んだ死の道(改)

久しぶりに会った人に「前髪作った?」と聞かれた。思いもよらぬ質問だったし、「前髪を作る」なる行為が意味するものを掴みかねたため、答えに窮してしまったが、改めて考えてみると全く身に覚えのないことでもない。おそらくあれのことを「前髪を作る」と…

『李陵』を語り、人生を思う

当記事では中島敦の『李陵』について縦横無尽に語ることにする。『李陵』は自分が一等好きな小説である。確かに西村賢太の小説は好きで再読もしているが、『どうで死ぬ身の一踊り』も『一夜』も『夢魔去りぬ』も『李陵』には遠く及ばない。格が違うのだ。そ…

Fuckin’ savages in the fuckin’ box

締め切りが迫っているのに、何も思い浮かばない。やばい。 などというと、さも一端の物書きのようであるが、何のことはない、己に課した月3本の記事をアップすることがこのままでは叶わなくなってしまうことに焦燥感を抱いているのだ。自分との約束も守れぬ…

死んだ人々の話ー恩師編ー

「死ね」それが口癖だったおっさんが死んだらしい。 「残念な知らせなんじゃけど」久しぶりに話す母の声は少し打ち沈んだ様子だった。誰かが死んだことを悟った僕は、心の準備を始める。「〇〇(高校のときの友人)のお母さんから連絡があってね」まだ付き合…

ルーティーン(fiction)

「受賞おめでとうございます!」「今の気持ちを一言、お願いします!」眩いばかりのフラッシュが私に向けて放たれている。パシャパシャ。カシャカシャ。「またか」と苦笑してしまいそうにもなるが、もう少し喜びに浸っていたい。夢でもいい、夢でもいいから…

輝ける石(改)

1 昼飯を食い終わったら、しばしトイレの個室に籠もる。催しているのもあるが、やるべきことがあるからだ。便座に腰掛けると同時にスマホを取り出してマッチングアプリを開き、ひたすら画面を右にスワイプし続ける、その日にもっている「いいね」を使い切る…

不良債権としての学歴

決算報告書を見ると、その会社の財務状況がわかる。貸借対照表の純資産の欄がプラスかマイナスか、損益計算書に純利益が計上されているのか、純損失が計上されているのか、判断材料は豊富だ。 僕の人生を網羅した決算報告書を作ったらと想像してみる。債務超…

新型コロナワクチンウイルス

ご多聞にもれず、ワクチンの副反応に苦しむ次第となってしまった。いやはや、なんとも情けない。「副反応で休むとかマジないっす」と煽り合っていた僕と先輩の双方に土が付いた格好だ。 就寝前は平熱だったが、夜中寒気とともに目が覚めたときには37度を超…

エチケット尊重主義の終わりに際して

去年の一月頃はどうして俺はマスクなんか着けているのだろうと訝しんでいたのに、この頃ではどうしてコロナ禍になるまで人前に顔面を晒していたのか不思議に思うようになった。これは恐ろしいことである。 おそらく、過去の習慣を忘れ、息苦しい不織布を着け…

脳中の雑音

映画『ベイビー・ドライバー』の主人公が耳鳴りをかき消すためにイヤホンをつけたまま生活しているのを奇異の目で眺めていた。そんなことをしたところで、音楽が耳鳴りにとって代わるだけではなかろうかと。 音楽を聴くのは人並みに好きな方だと思う。けれど…

痛みを伴う携帯買替

携帯を買い替えずに四年半使い続けるのが果たして珍しいことなのかはわからない。ただ僕はそうしてきた、それだけのことだ。思えば奴にも相当ガタがきていた。充電器に繋いでいても接触が悪いのか一向に右上の電池マークは緑にならないし、何度再起動してもL…

死を思う

過日、就寝中に死の恐怖に襲われた。夜中目が覚め、己の行く末を憂い、生きているのがどうしようもなく辛くなったなどいう精神の異常を特段きたしているわけではない。物理的に己の命が終焉しそうな感覚に捉われたのだ。 金縛りには昔からしばしばかかかって…

在庫整理的投稿

以下、酒の入っているときに書いた雑文である。興に乗って書いているうちに眠気に襲われ、続きは明日にでも書こうとそのまま床に付いたのだが、朝起きると見返す気も起きない。しょうもないことを徒に書き連ねた苦い記憶が鮮明に残っていたからだ。本来こん…

醜き鶏の囀り

巷間で人気沸騰中のコロナワクチンに対して、大いにスカしたスタンスを披露した2個前の記事において、私はさらっと「何が悲しくて自ら注射を希望するのか」と記している。該記事ではこの点は全く掘り下げず、ワクチンの安全性への不安についてうだうだと御…

消息(fiction)

ユカへ あなたと連絡がつかなくなってから、もう一年以上経ちます。元気にしていますか。わたしの方は新たな職場にも少しずつ慣れてきました。自分で言うのもなんですが、お客さん対応も最初と比べるとずいぶん板についてきたのかななんて思う今日この頃です…

針を打つ

最近どうも肩肘を張った根性論に傾倒していたきらいがあって、ダサいことこの上なかった。曰く、「お前が遊んでいるとき、俺は練習している。お前が寝ているとき、俺は練習している。お前が練習しているとき、勿論俺も練習している」だとか、やるっきゃない…

借り物競走の果てに

みすぼらしい身なりをしている。通勤時に履くジーンズはすっかりくたびれているうえ、上っ張りのワイシャツもアイロンがけなどはしないから、洗濯するたびに着実によれていく。靴だって2019年の1月にアウトレットで購入した時点で既に型落ちだったプー…

狂いし日々のラプソディ

字を褒められると、ほとんど人格を肯定されたぐらいの気持ちになる。全然綺麗ではないし、走り書きなどはしばしば自分でも解読不能なのだが、それでもときに「字、うまいっすね」と言ってくれる人がいるのは僥倖だ。 今まで一体どれくらいの文字を書いてきた…

寝ぼけ眼の先にある傑作を夢見て

月に3本ぐらいはブログを更新したいと思っているから、少し前からそわそわした日々を過ごしている。 しかしどうにも何も思いつかない。何個か下書きをしてみたものの、面白くなる気配がなく、中途で投げ出している。改めて読んでみるとそんなに面白いことを…

愚直に、真っ当に

マスクをつけたまま走ると、身体に必要以上の負荷がかかる。 でもまあ仕方がない。エチケットなのだから。 こんな時世になるまで、マスクをつけたままランニングするのは、元バンタム級世界王者辰吉丈一郎にのみ許された特権であったことも鑑み、肺機能がし…

Flash Back(essay)

貴船神社に向かう電車が運休である以上、もう帰る以外の選択肢はなかったが、その前に済ませておきたい野暮用があった。通帳を切り替えるのだ。一乗寺より程近い、休日も郵便の窓口は開いている左京郵便局にて駄目元で聞いてみると、手前の自動現金支払い機…

愚でなき兄と(fiction)

兄と会うのは3年ぶりだった。3年というと、件の疫病が流行するずっと以前から私と兄の交流は絶えていたことになるから、彼と私との間になんらかの確執があったように思われるかもしれないが、そんなことはなく、互いに不干渉でいるうちにいつの間にか長い…

健康というカルト

あの日確かに鏡の中にデブがいて、それは僕だった。 当時は太っていることに気づかず、制服のズボンのチャックが知らぬ間に少し下がっているなんてことがしばしば起こるようになっても、「チャックがアホになっとるから制服を交換してもらわんとな」などと呑…

鬼のいぬ間に(fiction)

6時間目の授業が永遠に続いてほしいと思っているのは、このクラスでわたしだけだろう。別に勉強が好きなわけではもちろんない。でも、放課後に待ち受けている地獄の時間のことを考えると、嫌いなな数学の授業中にあってさえ、矢沢永吉の名曲のタイトルが思…