玉稿激論集

玉稿をやっています。

人に優しく(fiction)

(1) 「すみません、すみませーん」 まさか俺に声をかけているとは思わず、駅への道を急いでいると、今度は少し大きめの声で「あのー、これ落としてますよー」と言われたので、何かと思って振り返る。すると、若い男が手袋を持ってこちらに向かってくると…

友情 其の壱(fiction)

女と話しているときに、野球をやっていたと言うと、大抵の場合、その場が静まり返る。別にスベッたわけではない。この国の女の多くは、野球と全く無縁のまま人生を過ごしている以上、仲間内で野球をやっている者がいたなんてこともないから、元野球部の同性…

新生活(fiction)

引っ越したばかりだと、街に冷たくされている気がする。当たり前のことだけど、誰もわたしに目もくれない。普段は人とのつながりを煩わしく感じたりしているのに、いざひとりぼっちになると急に寂しさを覚えたりする。 就職したばかりで、仕事にも全く慣れて…

不謹慎を語るー震災を振り返りつつー

あの日の僕はまだ高校生で、定期テストの最終日のために自習室で勉強していた。休憩がてら教室に向かうと、「東北ででっかい地震があったらしいで」と級友が教えてくれたので、自習室に戻って、携帯電話のワンセグ(響きすら懐かしいな)のスイッチを入れた…

カズオになくて賢太にあるもの

定期的にブログを更新しようと思っていても、なかなかうまくいかない。記事にできそうなネタが思い浮かぶと、一応下書きをしてみるものの、公開に至るものは一部に過ぎず、ほとんどは塩漬け状態のまま放置されている。週に1回ぐらいは怒りに任せて書き殴り…

真理、倫理、論理ー我が集大成ー

(1)畳みきれない風呂敷を広げる序文 一見関係のない物事の間につながりを見出せると、それを成し得た自分の視点の独自性を、話すなり書くなりして誰かに伝えたいと思うのは、自然な欲求だろう。例えば、元阪神タイガースの金本知憲が連続フルイニング出場…

理解できぬものを求めて

100年ぐらいかけてやっとのこと、『青色本』(ルートウィヒ・ウィトゲンシュタイン著、大森荘蔵訳、筑摩書房)を読了した。いやー、訳わからんかった。意味のわからない文字列を最初から最後まで目で辿っただけのことを「読了」というのかについては、措…

生き恥を晒す生き方(あとがき)

ワンピース33巻で「生き恥をさらすくらいなら死ぬ方がいい」「右に同じ」と、ゾロとサンジが息巻くと、ロビンは「男ってこういう生き物よ…」と嘆息する。ジェンダーレス(!?)の現代の価値観には甚だそぐわない会話だ。まあ、僕としては、死ぬくらいなら…

シャングリラ3(fiction )

(1) 風呂に入らずに寝ると、翌朝絶対に後悔する。昨晩洗い流されるはずだった汚れが身体にまとわりついている感じとともに目覚める。ただ、すぐ風呂に入るというのも億劫なので、眠くもないのに俺は目を閉じた。こうしていれば睡魔は再び寄ってくる。 よ…

シャングリラ2(fiction)

(1) 子どもの頃から勉強が大嫌いだった。特に算数。どこでつまずいたかははっきりしている。分数の足し算だ。わたしはいまだに1/2+2/3とかの計算ができない。どうやっても3/5以外の答えが思い浮かばないのだが、おそらく間違っているのだろう。分…

シャングリラ(fiction)

(1) 「次いつ宅飲みするんすか?」 「まあ、いつでもいいっすよ。でも部屋が散らかってるんでね、掃除をしないといけないのが面倒ですわ」 夜勤終わりの後輩に聞かれ、俺はそう答える。古びた事務所の中。床は黒ずみ、椅子はガタ付き、そこら中に書類が散…

銃が教えてくれたこと

ついに24シリーズを全部見終わった。1シーズン24話(シーズン9と10は12話)が10シーズンとスピンオフの映画が1本あったから、全部で217話。いやー、面白かった。控え目に言って、全シーズンの全話に満足している。これからどうやって暇を潰そうか。 連邦捜査…

帰れぬ者たちー『服従』の主人公と宮迫とー

期間限定で配属されていた部署から元の部署に戻ってきたとき、とある先輩に「久しぶりの現場はどう?」と尋ねられた。 「いやー、やっぱり自分のいるべき場所はここだったんだなって思います」 そう答えた。適当に。いや、テキトーに。 「ここがまさに自分の…

会社という宇宙、人間という宇宙

コピー機から出てきた給与明細を持って自席に戻ると、なぜかノートパソコンの画面が閉じられていた。 「〇〇さん、パソコンに明細がでかでかと写っていたから、画面を閉じておきましたよ」と先輩職員が言う。俺は感謝を述べたあと、「まあ、誰に見られても問…

誰よりも速く

(1)よくわからない導入から本題へ もんがまえの漢字は、うまいことできていると思う。 門という字は、神社の鳥居のように見える。内部と外部の境界線。その門から映し出される世界を、もんがまえの漢字は巧みに表現している。 陽が昇るときや沈むとき、門…

立川断酒

ここのところ、アルコールを摂取する機会を減らしている。「酒なんかいつでもやめられる」と息巻いている自分が、実際にアルコールを抜いたときにどうなるのか知りたかったからだ。あと、世論が高まってきたというのもある。 久方ぶりにいつものセブンで酒を…

雑感など

手付かずのおせち料理の重箱を見るとなんだか安心する。収まるべきところにすべての料理が収まっている。昆布巻きも黒豆も田作も。海老と数の子だけは少しでかい顔をしているけど。 自分の思考もこんな風にきれいに整理整頓されていたらいいのになと思う。仕…

文系学問の意味

自分がやられて嫌なことは他人にもやらないというのは、多くの人に採用されている原則だろう。まあ、都合よく解釈されてね。 というわけで、僕は他人に「大学でどんな勉強をしていたんですか」という質問は投げかけないようにしている。同じ質問を自分にされ…

酒、頭痛、眠り

大量の頭痛薬を飲む夢から覚めると、頭の痛みはすっかり治まっていた。寝ぼけた頭にプラシーボ効果という言葉が思い浮かぶ。効果のない錠剤でも医者に効くと言われて処方されると、そういうものなのかと思い込み、いつの間にか病気が治っているという、あれ…

凡庸の恐怖

大阪都構想が否決された。住民投票の投票権もないし、都構想の詳細も知らなかった僕としては、別にどっちに転んでもよかった。まあ、強いていうならば、可決されたときの反対派のインテリ学者連中の吠え面を見たかったというのはある。でも、否決されてから…

インテリ嫌いの頭の中

首相による日本学術会議の会員の任命拒否問題が収束しそうにない。まあ、当然だろう。任命拒否の理由も「総合的、俯瞰的観点から」とか訳わからないことを言っているし。 でも、世間は日本学術会議に厳しい。「税金で運営しているんだから、文句言うな」とい…

ぐちゃぐちゃな思い

『アンナ・カレーニナ』の冒頭には、「幸せな家庭というのはワンパターンだけど、不幸な家庭は多種多様だ」みたいなことが書いている。確か。 以下フィクション。フィクション大魔王。 会社の同期やら後輩と話していると、自分がワンパターンな幸せな家庭に…

夜に駆ける

中田敦彦曰く、老いとは病気らしい。 老いを止めるためには、まず、食事の量と回数を減らさなければならない。豊かな先進国で暮らす我々は、往々にして食べ過ぎている。特に、肉、魚、乳製品を。こんなものを食べているから、老いるのだ。なぜか。 (以下フ…

恐怖の電話

何かわからないことがあれば、電話して聞いたらいいじゃないという人がままいる。 マリーアントワネットかよと思う。 電話をかけるというのは、全ての手が封じられ、八方塞がりになったときの最終手段だ。 僕は電話をかけるのも、受けるのも大の苦手だ。言い…

中国の人、韓国の人

仕事の関係で、中韓の人と接する機会が多い時期があって(なんか世界を股にかけているビジネスマンっぽいな)、色々面白いなと思うことがあったので、そのことについて書いてみる。 まず断っておくけれど、ここでは中国人とか韓国人という書き方はしないよう…

とんねるず 石橋貴明という男

色々と話題になっているので、標記の件について(←本当に便利な言い回しだよな)今回は書いてみる。 僕は年齢的にはいわゆる「とんねるず世代」ではないけど、なんやかんやで中学とか高校の頃はほとんど欠かさず「みなさんのおかげでした」(以下「みなさん…

安倍政権の総括

会見の前から予想していた通り、総理が辞任した。大方の予想が外れて(?)、私の予想が当たった格好だ。 内田樹氏がTwitterで、総理が辞任したときに備えて、新聞社から寄稿依頼を受けていたことを明かしたのが8月26日のこと。そこから私は総理辞任にベット…

祖母の引っ越し(フィクション)

人生はジェットコースターだ(月並みだけどいい書き出し)。 まあ、というわけで、高知の元エキゾチック美人の祖母が僕の実家の近くに引っ越して来る運びとなった。高知に資産価値550億円の家を残して(ちょっと盛った)。 もう80歳になるおばあさんに部屋を…

会社で喧嘩するということ

チャンネルをザッピングしていたら、半沢直樹が社内で誰かの胸ぐらを掴んで、ブチ切れていた。いや、、、こえーーよ!!(東京03の飯塚風に) 今年の2月から3月くらいにかけて、会社で何回か先輩やら同期やらと喧嘩めいたことをした。当時の僕は、「言っても…

オリンピックがなくなった世界線で

「今日大阪何人だと思う?」 「165ぐらいかな」 「攻めるねえ。ちなみに俺は116。実際の数に近い方が勝ちね。負けた方はラーメン奢る」 「え、なにそれ。ちょい待てって」 みたいな会話をする日が来るなんて夢想だにしていなかった。まるでジェットコースタ…